当所が提唱するセルフ・セラピーは治療としての自己催眠療法であり、記憶を消すといった治療にならない催眠ではありません。
催眠暗示によって記憶を消すことや、記憶を呼び戻すことは、全く不可能ではありませんが、厳密にはいったん意識に入ったものは、思い出すことができなくても潜在意識の記憶としては消えることはありません。
催眠暗示で記憶を消すことができたとしても一時的であり、辛い記憶こそまた戻ってしまうのが普通で、またそうでなくては困ります。
自分の都合の良いように思い出したくないことだけ記憶を消すというように、選択的に記憶を消すことができるわけでなく、忘れてはならないはずの他のことも思い出すことができなくなることがあります。一つの記憶には色々なことが関連しているからです。
したがって、記憶を消す催眠は治療的な効果がないばかりではなく、基本的には健忘症にしていることになり、むしろ精神症状を作り出すといった、悪い催眠にしかなりません。また、自分が思い出さないからと言って、記憶がなくなるわけではなく潜在意識には大きなショックな出来事やトラウマになることは深く刻まれています。人間が想起できる記憶は記憶のごく一部に過ぎません。トラウマになるような強い記憶を抑圧することは解離を強めることになり、目先の苦痛は減ってもかえって精神症状を増長させたり危険になる場合がほとんどです。
たとえば、失恋による痛手など、辛いトラウマとなるような記憶を消したいという方もいらっしゃいますが、辛いことでも自分にとっては大切な経験です。仮に記憶が消えたとしても、それでトラウマが消えるわけではありません。人の人生にとって、大きな影響のあることを忘れるほうがおかしいのです。多少は苦い思い出として残っても、あまり苦にしなくなれば良いわけで、むしろ自分の成長に役立て克復することが大切です。
つらい思い出がいつまでもよみがえって、くよくよと苦になるのは、やはり元々幼児期からの心的外傷(トラウマ)があり、無意識のうちにそれと重なり複合的に精神に作用しているからです。
翻って考えると、同じような失恋であっても、健康的な人にとっては一時的には落ち込んだり悩んだりしても克服可能で、いつまでも苦にするようなことはなく、むしろ有意義な経験として、自分の成長に役立てることができるのです。そうなれば、辛い記憶ではなく、貴重な思い出となるわけです。
当所の催眠療法では健康的になることであり、治療効果をあげることができます。心的外傷後ストレス障害PTSDの方にももちろん有効です。